本稿の内容について、筆者・@nifty・ヤマハとも一切保証いたしません。実験される場合は自己責任において行ってください。 |
もしかして、使えるのでは?
Yahoo! BBを躍進を受けて、各プロバイダともIP電話サービスの普及促進に力を入れている。現在、試験サービス中のものも含めていくつかの陣営に分かれてユーザーの獲得・囲い込みを進めている。
このIP電話サービスを利用するためにはそれに対応した機器が必要となる。IP電話サービス自体がADSLユーザーを主な対象としているため、IP電話を使用するための機器はADSLモデムと一体になったものと、ADSLモデムに外付けするもの(TA:Telephony Adapterと呼ばれる)の2種類があり、どちらになるかはユーザーが契約している事業者・サービスによって決まる。
イー・アクセスの12Mサービスと@niftyを利用しているユーザーが@niftyのIP電話サービスである「@niftyフォン」の試験サービスに加入すると、NECのルーター内蔵ADSLモデム「AtermDR202C」と富士通のTA「iA112S」の組み合わせで利用することになる。
ネットワーク機器構成としては、AtermDR202Cのルーター機能を無効にして、ブリッジとして利用し、iA112Sをルーター内蔵TAとして使用する。
しかし、iA112Sのルーター機能はAtermDR202Cのそれと比較しても、あまり高機能とはいえない。また、PPPoE接続が不安定であるなど、満足できるものではなかった。
とはいうものの、まだ始まったばかりのIP電話サービス用の汎用のTAはほとんど流通していないため、事業者から提供された機器を使用するしかないのが現状だ。
そんな中、高機能なルーターとして知られるヤマハのネットボランチシリーズにIP電話対応を謳う製品がある。これは本来ヤマハが提供するネットボランチDNSサービスというDynamicDNSサービスを用いてネットボランチシリーズのユーザー同士で無料通話ができるというものである。
しかし、ヤマハのウェブサイトで公開されている上級者向けのドキュメントによると、非公式ながら外部のSIP(IP電話で使用されるプロトコル)サーバーを使用してIP電話を使えることが記されている。
このドキュメントにある設定項目は@niftyフォン用のTAの設定項目と似ており、また@niftyフォンもプロトコルにSIPを使用しているという記述をどこかで見かけた記憶があったので、「もしかしたらネットボランチシリーズで@niftyフォンを使えるのではないか」という気持ちが起こり、実験してみた。
ファームウェアのアップデートが必要
今回使用したのはネットボランチシリーズのうち、アナログ電話回線用のRT56vという製品。姉妹機にRT55iというものもあるが、これはISDN回線用の製品であり、ADSLユーザーはRT56vを選択する必要がある。
RT56vで外部SIPサーバーを利用するためにはファームウェアのリビジョンがRev.4.07.10b以上である必要があるが、筆者が使用したものは購入時点ではそれよりも古いバージョンだった。そこで、ヤマハのサイトにアクセスし、現在の最新版であるRev.04.07.19をダウンロードしアップデートを行った。
ファームウェアをアップデートした後設定画面を開くと、メニューに「IP電話サーバ」という項目が追加されている。この項目を選択し、@niftyから送られてきた書類に書かれていた情報などをもとに設定項目を入力する。
設定画面の項目名と@niftyから通知される項目の対応関係は下記の通り。
RT56vの設定項目 | @niftyから通知される項目 |
sipアドレス | <VoIP電話番号>@<サービスドメイン> |
サーバアドレス | VoIPサーバ名 |
ユーザID | VoIPサービスID(@niftyのログインユーザーIDやメールIDではない) |
パスワード | VoIPユーザパスワード(@niftyのログインパスワードやメールパスワードではない) |
また、RT56vは3つある電話機ポートについてインターネット電話機能を使用するかしないかなどを設定するようになっているため、各ポートについてインターネット電話機能を「使用する」、電話ユーザ名を「VoIP電話番号」にする。
独自のかけ方に慣れが必要
設定が終わったので、早速電話をかけてみる。プロバイダから貸与されるIP電話機器では、050番号でも普通の電話番号でもそのままダイヤルすれば、IP電話で発信できるときはIP電話として発信し、できない場合はNTTの回線に自動的に迂回するようになっている。また先頭に「0000」をつけてダイヤルすれば強制的にNTT回線を利用することも可能だ。
一方、RT56vは先頭に接続種別を表すプリフィクスをつけてダイヤルする必要がある。(デフォルトではプリフィクスを付けずにダイヤルした場合はNTT回線で発信するようになっている) このプリフィクスには「#」が含まれるため、電話回線がダイヤル回線であっても電話機はプッシュトーンを発信するようにしておかなければならない。回線がダイヤル回線である場合はRT56vが自動的にダイヤルパルスに変換して発信してくれる。
ちなみに、ダイヤルパルスを発信した場合はRT56vを素通りしてそのままNTT回線に流れるため、電話回線がダイヤル回線の場合はダイヤルパルスを発信すればNTT回線を使って発信することもできる。電話機にトーン/パルス切り替えスイッチが付いていて簡単に切りかえられるような場合は、この方法を使うのもいいかもしれない。
RT56vではダイヤルしてから一定時間(設定で変更可能)が経つと自動的に発信が始まるが、「#」をダイヤルするとその時点で発信が始まるようになっている。そのため、RT56vからIP電話宛てにかける場合は、
2#050xxxxxxxx#
などとダイヤルすることになる。実際に@niftyフォンユーザーに050番号宛てにかけてみると無事につながった。しかし、呼び出し音が鳴る回数が発信側と受信側で異なるため、受ける側が電話が鳴ってすぐ応答していても、かける側には何回か呼び出し音が鳴った後にやっと応答したように感じる。また、受ける側が応答した瞬間に、受ける側には「ピー、ギャー」というアナログモデムでダイヤルアップ接続をしたときのような音が聞こえ、かけた側では相手の応答第一声の冒頭部が少し切れて聞こえる、という現象が確認された。
このように、一部不具合と言えなくもない現象も見られたものの、通話自体は概ね良好だった。
着信を受けるためには発信側の設定変更が必要
ここまでは、順調だったものの、先ほどかけた相手から逆にこちらの050番号にかけたもらったところ、まったく通話できないという事態が発生した。たしかに、着信し電話機のベルも鳴るのだが、受話器を上げた瞬間に切れてしまうのである。発信側でも相手が出たかと思うとその瞬間に切れてしまうのだという。
事業者が指定したもの以外の機器を使っているのだから、原因は当然こちらにあるものと思い、あれこれ設定を変更したり再起動してみたりしたが、改善しなかった。「RT56vは発信専用としてしか使えないのか…」とあきらめかけていたとき、RT56vの通信ログを見てあることに気が付いた。
RT56vのログには2つあり、主に電話の発着信に関する情報が記録されている方には通信相手の電話番号が(ナンバーディスプレイに加入している場合はIP電話以外の電話番号も)記録されており、その頭にはプロトコル名も「sip:」というように付いている。ところが、先の@niftyフォンユーザーからの着信のログは相手の電話番号の頭に「tel:」と付いているのである。
最初はこの違いが何を表すのか分からなかったが、@niftyから貸与されたIP電話機器にそれらしき設定項目があったことを思い出した。富士通製のIP電話機器の場合「TEL-URL」と「SIP-URL」のいずれかを選択する項目がある。そして、デフォルトでは「TEL-URL」が選択されており、マニュアルでは変更しないようになっている。
ここを「SIP-URL」に変更してもらい、再度050番号宛てに発信してもらったところ、今度は無事に通話をすることができるようになった。また、RT56vのログでも「sip:」と表示されるようになった。
つまり、RT56vを使って@niftyフォンを利用するためには、相手にも設定変更を依頼する必要があるということだ。このへんはRT56vのファームウェアバージョンアップで対応してくれることを期待したい。
【6/16更新】ファームウェアをリビジョンRev.4.07.30にアップデートすることでこの問題を回避できる。
まとめ
この実験で分かったことは、相手側も含めて適切な設定を行えば、RT56vでもプロバイダ系のIP電話サービスを利用できる可能性があるということだ。他にもIP電話機能を搭載していることを謳っているルーターも数は少ないながらも存在しており、これらでも同様にプロバイダ系のIP電話サービスを利用できるかもしれない。
プロバイダから貸与されたIP電話機器のルーター機能に満足できない場合は試してみる価値があるかもしれない。
ただし、冒頭にもあるように、ここで述べている方法は非公式のものであるので、行う場合は自己責任で行ってほしい。また、他の機器の組み合わせでもIP電話が利用できた事例があれば、お教えいただければ幸いである。
関連情報
ヤマハ ネットボランチシリーズ
http://www.netvolante.jp/
SIPサーバー利用に関する技術情報
http://www.rtpro.yamaha.co.jp/RT/FAQ/VoIP/voip-ans.html#4
http://www.rtpro.yamaha.co.jp/RT/FAQ/VoIP/sserver.html